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Q:このお仕事をはじめたきっかけを教えてください。
多摩美術大学染織科卒業時、友人たちはアパレルのデザイナーズブランドなどに就職していったのですが、自分は海外への興味や特にインテリアへの関心が強く、就職はしないと決めてインポート家具や雑貨を扱うインテリアSHOPへ、自ら足を運んで作品をみていただく機会を作りました。
そんな中、当時青山にあった【E&Y】というインテリアSHOPの方に作品を見ていただいたところ、このSHOPにて卒業制作を展示する機会を頂きました。 ※水田氏の卒業制作は『Listening Cloth』と題され、のちのブランド名『textile+music』に通じる、視覚でとらえる布の世界観に音を合わせることで、聴覚へのアプローチを持たせ、五感を感じる布を表現し優秀賞に選ばれた。
とても大好きなお店だったのですごく嬉しく、展示をみてくださった様々な方との出会いや お店で扱っている最先端のデザイン、そしてそこで働いている方たちに大きな刺激を受けて、この仕事を はじめようと思いました。
さらにこの展示をみていただいたセレクトSHOPの方からお仕事のオーダーをいただきました。テキスタイルデザインはもちろん、当初はバッグやポーチなどを自ら縫製もして納品するところまですべておこなうという内容でした。
大学卒業時から海外への興味が深く
気になるのはインテリアSHOPだった
Q:どんなモノ・コトからデザインのインスピレーションが生まれますか?
僕のデザインのインスピレーションは、直接物から影響を受けるということはないんです。街中の情景や、人のしぐさ、言葉など、何処にでもあるふつうの生活から影響されます。
あの景色、あの音など、ふと触れたものが時間をおいて疑問になり、それが柄になったり形になったらどんなものになるのか…一度自分の中を通過した後に、大切なものが見えてくる気がします。
あとは過去の様々な国の文化を調べてみて、その様式や技法や作法を合わせてみたらどうだろう?と考えたり。まずは色々なものや事に疑問を見出して解釈する、その先にインスピレーションが生まれる感じです。
Q:コペンハーゲンでの個展をされたとのこと。そのお話を聞かせてください。
仕事を始めた頃からお世話になっていたコペン在住のデザイン関係の方と「いつかコペンで展示したいね、海外の方に自分の作品を見て頂けたらなぁ」とずっと話をしていました。そして2013年実現しました。
コペンハーゲンはとても街がこじんまりとしていて、人もゆっくりと余裕がありアットホームな印象でした。コミュニティが狭いのですが、いやな感じがしないのです。
僕がお会いしたデンマークの方たちはとてもフレンドリーで、滞在中充実した時間を過ごすことが出来ました。
クリーンなコペンハーゲンの街並みに
一際映えるドローイングプリント
プリントがリピートする感じを見せたくて
反物としての展示にこだわっている
Q:【BEARDSLEY】では現在“NORDIC COLOR”をテーマに展開をしていますが、コペンハーゲンでご覧になったインテリアや色のことなどで印象に残っていることをお聞かせください。
やはり北欧の気候環境のため家にいる時間が長いせいか、心地よくシンプルなものが多いと感じました。
ただしシンプルなだけではなく、少しだけ面白いアクセントの色がほどこされていたり、ユニークなものや刺激的なものも多く、デンマークの方は審美眼が素晴らしいなと感じました。アトリエやファクトリーにいくこともありましたが、みな自信をもっていて色々なアイディアを形にしているのです。おおらかな国民性が影響しているのかもしれません。
印象的だった情景は運河沿いに並ぶ家々の窓から、なんとなく外へ向けてアピールしているかのようにインテリアがコーディネートされていて、家ごとに表情が違うその雰囲気がとても素敵でした。
窓の造形が変わっていて、中からの光りが居心地の
良さを感じさせる
運河沿いの家々は壁の色がカラフルでどことなく
温かみがある
Q:代表的な作品とそのこだわりポイントを教えてください。
2006年に発表した『絢爛(ケンラン)』という生地です。
この作品を作る前に色々と環境が変わり、表現をすることに色々と疑問をかかえていました。デザインなのか?アートなのか?どう柄を考えていくか?どう人につたえていくか?など試行錯誤している時でした。
だったらすべての“想い“を表現方法にどんな形であろうと入れてみては?と考えました。そこから化学反応のようになって自分しか表現できない柄が生まれるのではとこだわった作品です。
雑貨といった形になったモノではなく、本来の『テキスタイルデザイン』を見せたいとの思いから、布の状態で展示する表現方法へのこだわりも、この時から確立することになりました。
『絢爛(ケンラン)』の展示。試行錯誤を繰り返した
後の展示は潔いまでの迫力
この個展を開催した際には、とてもうれしい偶然にも恵まれました。
たまたま日本でデザインウィークが開催されて、海外から訪れたデザイン関係者が多数存在していたようです。偶然自転車で通りかかった外国の方が作品に興味を持ってくれて、翌日の撮影を申し出てくださいました。それがなんと自分自身も大好きだった海外誌『wallpaper*』の関係者で、その誌面に載せていただけることになったのです。
海外との接点は常に考えていたので、この思わぬ出来事はその後の海外展示への夢を現実に近づける1歩だったかもしれません。
世界のデザイン関係者が注目している
イギリス『wallpaper*』で取り上げられた
あらゆる“想い”がドローイングやシルクスクリーンなど
様々な技法で表現されている
Q:過去の取り組みで忘れられない出来事などあれば教えてください。
先にもあげたコペンハーゲンでの展示とその後行ったシンガポールでの展示です。
2つの展示では多くのことを学び、多くの人に支えられていることにあらためて気づき、そのことに心から感謝しました。また、海外での展示は日本と違う文化を持つ方たちとのふれあいから、思わぬ発想に気づかされ「表現するってこんなに楽しいんだ」ということを、あらためて再確認できました。
Q:仕事の時(海外個展の際でも)必ず持っていくものや毎日取り入れているものがあれば教えてください。
こだわりの1品ではないのですが、必ず持っているのは鉛筆とクロッキー帳です。僕の作品には線画が多く、デッサンが好きなのでふといたずら書きを書き留めておけるよう持っています。
鉛筆はメーカーによって色や硬さが違ったり、芯の出方によって表現が変わるので自分自身で削って調整しています。クロッキー帳は改めて見直したりしながら、なんとなく気になるモチーフを作品にとり入れたりするネタ帳のようなものですね。
削り方で線の細さなどを調整して使い分けるという
もう何冊にもなるクロッキー帳は
繰り返し見てその時のヒントに
最近はカメラを持ち歩くことも多くなりました。写真も鉛筆みたいに自由に使って、作品を制作する素材として活用できる可能性を感じています。
最近使っているカメラは取材用ではなく
デザインへ広げていく素材として活用
Q:仕事や日常でこだわっていることを教えてください。
仕事柄、部屋にこもっての作業が多く基本的にインドアなのですが、ここ数年は外で体を動かすことを趣味にしています。ランニングやフィットネスなどを主にやっていますが体の循環にもなるし、心にも良い影響があると感じています。
あとは仕事の時は1日・1週間のルーティーンを決めています。
体調やスケジュールを自分自身で決めて管理することで、健やかに過ごす日々の時間が新しい作品へ、繋がっていくと思うのです。
生活のリズムを自ら整えることで
心身ともに健やかな日々を
細密なタッチで多様なイメージを重ね合わせる独特の世界観が人気のテキスタイルデザイナー。
魅力溢れる感性から生まれるいくつものモチーフに、様々な文化を重ねあわせ、時間の流れとその背景にあるストーリーをテキスタイルに込めていく。常にオリジナリティを追求しながら、テキスタイルとその新しい可能性にチャレンジ。また近年では、ドローイング・イラストへの制作も始める。
新たなジャンルの幅を広げ、枠にとらわれず、デザインとアートの境界で作品作りを続けている。
日本ではもちろんコペンハーゲンやシンガポールなど海外個展や展示も開催した経緯をもつ。