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Q:まずはアートディレクターのお仕事をはじめたきっかけを教えてください。
学生時代は油絵科だったので絵を描く仕事につきたいと、ガラスに砂を吹き付けて絵を描くストーンブラストの会社に職人見習いとして就職しました。
しかし、僕が入社して間もなく、グラフィックを専門に扱う広告部が立ち上がることになり、なんと入社後まだ2ヶ月位しかたっていないのに僕はその広告部に移動する事になってしまいしましました。ちょうど世の中では『マッキントッシュ』なるものでデザインをおこなう『DTP』が導入させ始めた頃です。当時はまだまだアナログの版下が一般的で、文字はサイバート(電算写植機)で打ち、写真はモノクロコピーを紙台紙に糊で貼りレイアウトしたもの…といっても今の人はピンとこないかもしれませんが、とにかく一つ一つを手作業で仕上げ、色の指定も台紙に貼ったトレッシングペーパーに赤ペンで描き込んで指定していました。例えばC100%、M60%、Y30%って具合に。 色をかけあわせることは、絵の具を混ぜて色を作る感覚に似ていて、油絵をやっていた経験が非常にいかせたのですが、本来「絵を描きたい」と思っていた気持ちから仕事がどんどん遠くなっていることに気づき、転職を決めました。
再就職先は大手代理店系列のデザイン会社でした。 そこでは当時人気のオーディオ商品のパッケージから、キャンペーン全般のグラフィックを手掛けることに なりました。やりがいのある仕事でしたが、徐々にたくさんの人たちが関わることの不都合さを感じるようになり、もう少しシンプルに自分が興味をもっている“ファッション”や“音楽”のデザインにかかわりたいと思うようになり、独立し1999年「Super me inc」を立ち上げました。
“ファッション”と“音楽”のデザインにこだわり独立
Q:アートディレクターとして活躍されているなかで、ご自身の趣味が仕事に繋がることも多いようですね。
『FUJI ROOK FESTIVAL』のオフィシャルTシャツは13年間デザインを担当させて頂いてますが、もともと超が付くほどの音楽好きだったので「是非Tシャツを作らせてほしい!」と主宰の【スマッシュ】に懇願しに行きました。しかし、既にデザイナーは決まっていた為、その時は断られたのですが、その後“新潟県中越地震”が起こり、チャリティーイベントを【スマッシュ】が開催することになりました。その際に「チャリティーTシャツのデザインに参加しないか?」とのお声かけをいただき、もちろんギャラが出るわけではなかったのですがお引き受けしました。ありがたいことに、その時のデザインの評判が高く、結果『FUJI ROOK FESTIVAL』のオフィシャルTシャツを手がけることになりました。
スノーボードブランド『gentemstick』との関わりも元々は誘われるままに友人に同行したニセコで、偶然出会った方が実はその世界ではみんなが憧れるほどのカリスマだったんです。その方が『gentemstick』オーナーでSHOPに伺ってみたら、そのスノーボードのデザインの素晴らしさにすっかり魅了されてしまいました。サーフィンをしている自分にとって“スノーサーフ”という響きも心地よく、どんどんハマって行きました。その後、何度となくニセコを訪れる中、「レディースラインのデザインに関わらないか?」と声をかけてもらい、カタログやロゴ、ボードのグラフィックを担当させて頂く事になりました。
“好き“という気持ちを貫いていると思いが通じるのかもしれません。自分自身もまた訪れたチャンスに対してカテゴライズせずトライしてみたいという気持ちを大切にしているので、常に楽しみながら向き合えているのだと思います。
インド好きな友と始めたブランド【CAMPINDIA】
“変化は人生のスパイス”と書かれたオリジナルBAG
Q:【3 MILE WALKERS】をスタートさせたきっかけは?
犬は昔から大好きだったのですが、世の中に流通している犬グッズに欲しいものがないと感じていました。
考え方は人それぞれなのですが、僕は犬は相棒というか対等な関係でありたいと思っているんです。その上で、なるべくシンプルで丈夫であり、自分のライフスタイルにも合うものが欲しいと思っているんです。そして何より、犬に負荷がかからないものであることも大切にしたいと考えています。そんな思いから、世の中にないなら自分自身でと【3 MILE WALKERS】というブランドを、友人と立ち上げることになったんです。
ブランドの名前は、ちょうどこの相棒との散歩の距離が“3MILE”(約5km)であることと、2人連れだっての散歩なのであえて“WALKES”と“S”をつけたことも小さなこだわりです。
3 MILE WALKERS http://milokwebonline.com/
二人の歩く距離からブランド名が生まれた
Q:どのような物・事から制作のインスピレーションが生まれますか?
事務所は完全に作業の場と考えていて、何か考えたり発想するのは事務所以外でと切り替えています。
独立した頃は、六本木の【青山ブックセンター】に週5回通うほど入り浸っていて、デザインや写真に関わる本を読み漁り、それこそ「見ていない本はないのでは?」と思うくらい常に新刊もチェックしてアイディアを探すことに夢中になっていました。 しかしだんだんそれが義務のように思えてきて、本来の本を見る楽しさを忘れて苦しい気持ちにすらなっていました。
そんな中、その後ライフワークとなるたサーフィンと出会うことに。それからは誰かの価値観ではなく、 実際の体験や楽しむ時間の中で生まれる自由な発想が心地よく感じられるようになっていきました。例えば思いっきりサーフィンを楽しんだ帰り道に、リラックスした気分で色々考えをめぐらせると自然と いいアイディアが生まれることがあるんです。 自分が楽しんだ時間を過ごした充実感があるからこそ、楽しいデザインへの発想に繋がっていくのかもしれません。
1冊すべてにこだわりが詰まった思い出のカタログ
Q:犬との生活の中でどのような時に喜びを感じますか?
もちろん毎日が喜びです。今の子は4匹目なのですが、いつも犬から学ぶことが多いと感じています。僕自身も初めから良い飼い主ではなく、歴代の犬たちのおかげで僕は犬とのつき合い方を学んでいます。
先代の犬が亡くなった時、妻はあまりの悲しみから「もう犬は飼いたくない」と言っていたのですが、僕がどうしても飼いたくて、ならば世話はすべて自分自身でするという“約束“でこの子を家族として迎えました。それからは、日々のしつけはもちろんですが、サーフィンでどんなに朝がはやくても、夜どんなに遅くまで飲んでしまっても、必ず散歩と毎日のブラッシング欠かさないようにしています。彼らと過ごす時間で、僕自身も成長させてもらっている気がしています。
オーストラリアンラブラドゥードゥルの“フォンド”
Q:犬にまつわる忘れられない思い出があれば教えてください。
やはり死を迎えるときのことはいつまでも忘れられません。とても悲しい事ですが、病院ではなく必ず自宅でその時をむかえて、どんなに辛くても最後まで向き合います。
病院で延命治療をさせるといった考え方もあるのでしょうが、一緒に過ごした自宅で家族で見守りながら旅立たせたい。最後まで一緒に過ごすことに責任を持ちたいし、やはり家族の一員として送り出したいと思うのです。
Q:毎日取り入れているこだわりの1品があれば教えてください。
オリーブの木でできたお皿と水牛のカトラリーは、大好きな山や海でも使いますし、家でも使っています。 家の中にいても常に自然を感じていたいのかもしれません。また、直接肌に触れる自分が使う物には、その感触にこだわりを持ちたいと思っています。 食事をする時、見た目が美味しそうに見えることはもちろんですが、使う時の感触にもこだわりを持ちたい。お皿はたまにオリーブオイルを塗りこんでメンテナンスもします。
気に入った物の良い状態を保つために 大切に扱うことも、ますます愛着を感じられて自分自身も心地よいのだと思います。
毎日でも使いたい感触のここちよさを大切に
Q:日常や(自分の生活などで)こだわっていることを教えてください。
仕事もプライベートも常に物事をフレキシブルにとらえ“楽しむ”ことを続けていきたいです。
実は今では大好きな海も、昔はあまり好きではなくて、でも「せっかくだから」と誘われるままにサーフィンを始めてみたらものすごくハマってしまったり、「グルメ旅を楽しむか!」くらいの気持ちで訪れた ニセコで運命的にスノーサーフに魅了されたり…固定概念にとらわれずになんでもトライしてみようと思っています。
物欲はあまりないのですが『物』より『経験』にお金をかけることが大切だと思っていて、結果だけを求めるのでなくて、それに行きつくまでのプロセスも楽しむのが大切だと感じています。たとえば3時間雪山を登ったあとのスノーサーフがたった1分で、あっという間に終わってしまっても、 そのための3時間があったからこその充実感は何物にも変えがたい喜びにもなるのだと思うのです。
気になることには常にフレキシブルに
毎日を楽しみながら過ごしたい
1999年デザイン会社「Super me inc.」設立。ファッションブランドなどのビジュアルデザインや、人気アーティストのCDジャケットを手掛け、“ファッション“と”音楽“をメインフィールドに活動する。犬と雪山と波を愛し、スノーボードブランド「gentemstick」のレディースラインなどもディレクション。毎年手掛けるFUJI ROCK FESTIVALオフィシャルTシャツが人気。